荒野

そういえば、ここに来てから教室の窓から夕日を見ることがなかった。ということに今日始めて気づいた。
2000メートル級の墨色の連山の向こうに、朱色のグラデーションを残して沈んでいく。青鈍色の暮れ方の空には、星ひとつふたつ。なんと形容したらいいのか分からなくて、一瞬見惚れた。大判のチェックのひざ掛けを肩にかけて、空間と時間を跨いであの時に戻ったような、不思議な錯覚に陥る。日々の苛々とかやるせなさとか悔恨とか、「働け」と毒づく醜い私とか全部が全部帳消しになったような気がしたよ。まっさらにはならないけれど、窓ガラスに映る自分の姿が綺麗に浄化されていく感覚を焼き付けておくことにした。