風呂場の電球が切れて真っ暗闇に。買い置きがないから、キャンドル2つ浴槽のへりに置く。仄暗い光をうけてバスタブは一面ぬらっとする。入浴剤の桜の匂いが漂って、鼻腔をつく。幼子のようにキャンドルの蝋を水面に垂らす。桜の花びらのようにゆらゆらゆらゆら ゆっくりたゆたう。身の丈に合わないことはしたくないし、身に付けたくないなと思う。父親の再入院を知らされる。受話器から伝わる母親の声を冷静に受け止める。これが22年間かけて築いてきた関係なんだから仕方ないと割り切っている。私の冷徹な性格はこの人から譲り受けたんだろ。人に対して執着がない代わりに愛情も抱かないというか抱けない。一番憎んでいるところをしっかり受け継いでいるから笑える。父親は無条件に娘を愛すものだなんて、嘘だよ。血は関係ない。今まで何度こうして風呂場で泣いたかわからない。割り切っているとは言いながら割り切れない自分が悔しくて悲しくてへりに載せた頬に涙が伝う。